熊本地方裁判所 昭和41年(行ウ)5号 判決 1966年6月10日
原告 三協建設株式会社
被告 熊本地方法務局供託官
訴訟代理人 斎藤健 外二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、訴外旭無煙炭鉱株式会社が原告主張の日、熊本地方裁判所において、原告主張の仮執行宣言及び免脱宣言付判決の言渡を受けたが、原告主張の日、仮執行免脱保証金四〇〇、〇〇〇円を熊本地方法務局へ供託し、右仮執行の免脱を得た上、右判決に対して福岡高等裁判所に控訴したところ原告主張の日その主張の仮執行宣言付変更判決がなされ更に第一審判決に対する仮執行免脱保証金を援用し、右第二審判決の仮執行の免脱を得て、最高裁判所へ上告したところ、原告主張の日、上告棄却の判決がなされ同日第二審判決が確定したこと、及び原告がその主張の還付請求をなしたところ、処分庁たる熊本地方法務局供託官宮崎太市は前記保証金は仮執行免脱によつて蒙つた損害の保証であつて本案の請求自体をも担保するものではないとの理由により原告の請求を却下したことはいずれも当事者間に争がない。
二、(1) 原告は仮執行免脱のための保証金は本案の請求をも担保するものであつて、本案請求認容の判決が確定すれば直ちに右確定判決に基いて右保証金に対して質権を行使できるのであつて、それにもかかわらず右供託官が本件還付請求を却下したのは違法であると主張するのでこの点について判断する。
仮執行ないし仮執行免脱宣言制度は勝訴原告に担保を供し又は供せずして判決確定前の仮執行を認めるとともに、仮執行によつて不測の損害を蒙ることのあるべき敗訴被告には、担保を供して仮執行の免脱を得させ、もつて判決未確定の間の当事者の利害の調節権衡を図る趣旨のものであつて、その担保は仮執行宣言にあたつては仮執行をしたため敗訴被告に生じる損害を担保し、仮執行免脱宣言にあつては判決確定に至るまで仮執行できなかつたことによつて勝訴原告が受けることあるべき損害を担保するものであると解すべきである。
従つて勝訴原告が敗訴被告の供託した仮執行免脱保証金につき質権を実行するには、本案の請求とは別に仮執行を行い得ないことによつて勝訴原告が受けた損害の数額を確定し、その権利を証明することを要する(供託法八条一項、同規則二四条二号)。
(2) 原告主張のように仮執行免脱保証金が本案請求をも担保し、本案確定判決に基づいて直ちに右保証金の還付請求ができると解すると、勝訴判決が確定すれば仮執行が免脱されていたとしても結局仮執行がなされていたのと同様の地位が保証され勝訴原告の地位は強く保護されることになるが、確定前に執行されることにより不測の損害を生ずるおそれのある敗訴被告の不利益を防止しようとする仮執行免脱宣言制度の趣旨からみて不当であるのみならず、本案が金銭債権であれば、債権者をして仮執行をしたのと同様の地位を保証することができるが、金銭債権のみならず一切の財産上の請求権について認められている仮執行免脱宣言について、仮執行をしたのと同様の地位を保証するような担保を供することはできない。
又上訴の際の執行停止についてはその担保が執行債権を担保するものではなく、執行停止によつて生ずべき損害を担保するものであつて、その権利を行使するには、損害賠償請求権について債務名義を必要とすることは既に判例があり、(前者につき昭和八年五月一日大審院判決評論二二巻民訴二〇三、後者につき昭和六年五月二七日大審院決定新報二六〇号一三頁)その機能を同じくする仮執行免脱の場合にこれと別異に解釈しなければならない理由はない。尤も仮執行免脱の保証金が実務上本案の請求金額に近い金額に定められている点は事実であるが、本案の請求と同額ではないのみならず、そのこと自体から直ちに本案の請求をも担保するとは言い得ない。
してみると熊本地方法務局供託官宮崎太市が原告に対してなした本件供託金及びその利息の還付請求を却下した処分は何ら違法の点はなく、これが取消を求める原告の請求はその理由がないから棄却を免れない。
よつて訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 弥富春吉 内園盛久 川畑耕平)